荷物を悉くこちらへ運んでここで暫く御介抱致す考です。それで私はこれからそれを取りに帰ります。その間この東助をお側に付けておきますから、二、三日このまま御辛抱なすって下さいまし。」
と耳元で囁くと、博士は静かに黙頭《うなず》いた。
文彦は立ち上って東助に向い、
「それでは僕はこれから行って来るから、留守を確然《しっかり》預かっていてくれ。」
「よろしゅうございます。どうも御苦労様でござります。」
「じゃ後をよろしく頼むよ。」
と、再びその洞を出て元来た道に引返した。
二日目の朝いよいよ自分の天幕《テント》に帰ってまず飛行船を組み立て天幕などを取片付けてその中に入れ、大急ぎで飛行船に乗じて、又かの洞穴に立ち返った。
飛行船を降りるや否や、
「東助、東助。」
と呼んだが更に答がない。
「どうしたんだろう。」
と独言《つぶや》きながら奥に行くと、灯《あかり》は消えて四辺は黒白《あやめ》も分かぬ真の闇だ。
「叔父さん※[#感嘆符二つ、1−8−75] 只今帰りました。文彦です。東助。東助は居ないか。」
と大声を挙げたが依然として、答うるものは物凄い己れの声の反響のみだ。
文彦は一時に不安の
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