うに眼《まなこ》を開けた。
「叔父さん。お気が付きましたか。文彦です。僕です。」
「おお文彦か。」
「はい。」
「篠山の旦那様! お気がつかれましたか。」
「よく来てくれた。」
と一口言ったが、一時に安心するとともに、今迄張りつめた気も弛んで、再びそこに仆れようとする。
「叔父さん、どうぞ確然《しっかり》して下さい。」
とブランデーを口に注ぐと、漸く又正気に復して、
「よし。もう俺は大丈夫だ。杉田を、杉田を、」
と、指示すので、
「はい。」と文彦は側に打ち仆れている助手の杉田を抱き起して見ると、もうすでに絶命《ことき》れて身体は氷のように冷え切っている。
それでも万一と、薬を呑ませて色々と介抱したが、もう如何とも仕方がない。
「叔父さん。杉田はもう駄目です。とても助かりません。」
「そうか。可哀相《かわいそう》な事をした。」
博士は思わずハラハラと涙を流した。
博士の行衛
暫くして文彦は思い出したように、
「叔父さん。今私どもの道具はここから十五里ばかりの処に置いてあります。そこまで御連れ申したいですけれど、この御様子ではとてもお動かしすることは出来ませんから、一まず
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