には造型機《ざうけいき》、碎砂機《さいしやき》を具《そな》へ、旋盤塲《せんばんじやう》には縱削機《じゆうせうき》、横削機《わうせうき》、平鉋盤《へいほうばん》、鑽孔機《さんこうき》の配置《はいち》よろしく、製罐塲《せいくわんじやう》には水壓打鋲機《すいあつだべうき》あり、工作塲《こうさくじやう》には屈撓器《くつぎようき》、剪斷機《せんだんき》あり。圓鋸機《ゑんきよき》、帶形鋸機《たいけいきよき》のほとりには、角材《かくざい》、鐵材《てつざい》山《やま》の如《ごと》く、其他《そのほか》、空氣壓搾喞筒《くうきあつさくぽんぷ》、電氣力發機等《でんきりよくはつきとう》の緻密《ちみつ》なる機械《きかい》より、銀鑞《ぎんらう》、白鑞《はくらう》、タール綱《づな》、マニラ綱《づな》、帆《ほ》縫糸《ぬひいと》、撚糸《よりいと》、金剛砂布《こんがうしやふ》、黒鉛《こくゑん》、氣發油《きはつゆう》、白絞油《はくかうゆう》、ラジーン塗具《ぬりぐ》、錆色《さびいろ》塗具《ぬりぐ》、銅板《どうばん》、鐵板《てつぱん》、鋼板《こうばん》、亞鉛塊《あゑんくわい》、ガツタバーカー板《ばん》、エボナイト板《ばん》、硝子板《せうしばん》、硝子管《せうしくわん》、舷窓用《げんそうよう》厚硝子《あつがらす》、螺旋鋲《らせんべう》、鋼※[#「金+皎のつくり」、第3水準1−93−13]鋲《こうこうべう》、眞鍮鑄鋲《しんちゆうじゆべう》、石絨衞帶《せきじゆうえいたい》、彈心衞帶等《だんしんえいたいとう》に至《いた》るまで、よくも斯《かゝ》る絶島《ぜつたう》にかく迄《まで》整然《せいぜん》たる凖備《じゆんび》の出來《でき》た事《こと》よと怪《あや》しまるゝばかりで、これ等《ら》の諸《しよ》機械《きかい》諸《しよ》材料《ざいりよう》は、すべて二|年《ねん》以前《いぜん》に、櫻木大佐《さくらぎたいさ》が大帆船《だいはんせん》浪《なみ》の江丸《えまる》に搭載《たうさい》して、此《この》島《しま》に運搬《うんぱん》し來《きた》つたもので、今《いま》はそれ/″\適當《てきたう》の位置《いち》に配置《はいち》されて、すでに幾度《いくたび》の作用《さよう》をなした形跡《けいせき》は歴然《れきぜん》と見《み》える。
此時《このとき》忽《たちま》ち私《わたくし》の眼《め》に留《とま》つたのは此《この》不思議《ふしぎ》なる洞中造船所《どうちゆうざうせんじよ》の中央《ちうわう》に位《くらゐ》して、凹凸《おうとつ》の岩《いわ》の形《かたち》が自然《しぜん》に船臺《せんだい》をなしたる處《ところ》、其處《そこ》に今《いま》や工事中《こうじちゆう》の、一種《いつしゆ》異樣《ゐやう》の船體《せんたい》が認《みと》められたのである。
『これが、私《わたくし》の秘密《ひみつ》に製造《せいざう》しつゝある、海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》です。』と、櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》は徐《おもむ》ろに右手《ゆんで》を擧《あ》げて、其《その》船體《せんたい》を指《ゆびざ》した。さてこそ、と私《わたくし》は胸《むね》を跳《をど》らしつゝ其《その》船躰《せんたい》を熟視《じゆくし》したが、あゝ、世《よ》に斯《か》くも不思議《ふしぎ》なる、斯《か》くも強堅《きようけん》なる、船艦《せんかん》がまたとあらうか、私《わたくし》は其《その》外形《ぐわいけい》を一見《いつけん》したばかりで、實《じつ》に其《その》船形《せんけい》の巧妙《こうめう》不思議《ふしぎ》なるに愕《おどろ》いたが、更《さら》に大佐《たいさ》に導《みちび》かれて、今《いま》は既《すで》に二|年《ねん》有餘《いうよ》の歳月《さいげつ》を費《つひや》して、船體《せんたい》半《なか》ば出來上《できあが》つた海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の内部《ないぶ》に入《い》り、具《つぶさ》に上甲板《じやうかんぱん》、下甲板《げかんぱん》、「ウオター、ウエー」、「ウ井ング、パツセージ」、二重底《にじゆうそこ》、肋骨材等《ろくこつざいとう》諸般《しよはん》の構造《こうざう》を眺《なが》め、また千變萬化《せんぺんばんくわ》なる百種《ひやくしゆ》の機關《きくわん》の説明《せつめい》を聽《き》いた時《とき》は、殆《ほと》んど之《これ》が人間《にんげん》の業《わざ》かと疑《うたが》はるゝばかりで、吾知《われし》らず驚嘆《きやうたん》の叫聲《さけび》を發《はつ》する事《こと》を禁《きん》じ得《え》なかつた。あゝ、かくも神變《しんぺん》不可思議《ふかしぎ》なる海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》は、今《いま》や此《この》秘密《ひみつ》なる洞中《どうちゆう》の造船所《ざうせんじよ》に於《おい》て、櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》の指揮《しき》の下《した》に、夜《よ》を日《ひ》に繼《つ》いで製造《せいざう》されつゝあるのであるが、此《この》猛烈《まうれつ》なる戰艇《せんてい》が、他日《たじつ》首尾《しゆび》よく竣工《しゆんこう》して、我《わが》大日本帝國《だいにつぽんていこく》の海軍《かいぐん》の列《れつ》に加《くわは》つた時《とき》には、果《はた》して如何《いか》なる大影響《だいえいきよう》を世界《せかい》の海軍《かいぐん》に及《およ》ぼすであらうか。私《わたくし》は斷言《だんげん》する、鷲《わし》の如《ごと》く猛《たけ》く、獅子《しゝ》の如《ごと》く勇《いさ》ましき列國《れつこく》の艦隊《かんたい》が百千舳艫《ひやくせんじくろ》を並《なら》べて來《きた》るとも、日章旗《につしようき》の向《むか》ふ處《ところ》、恐《おそ》らくば風靡《ふうび》せざる處《ところ》はあるまいと。
敬愛《けいあい》する讀者《どくしや》諸君《しよくん》よ、私《わたくし》は今《いま》、此《この》驚《おどろ》く可《べ》く懼《おそ》る可《べ》き海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の構造《こうざう》について、詳《くわ》しき説明《せつめい》を試《こゝろ》みたいのだが、それは櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》の大秘密《だいひみつ》に屬《ぞく》するから出來《でき》ぬ。たゞ、其《その》秘密《ひみつ》を侵《おか》さゞる範圍内《はんゐない》に於《おい》て略言《りやくげん》すると、此《この》海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》は全艇《ぜんてい》の長《なが》さ百三十|呎《ヒート》六|吋《インチ》、幅員《ふくいん》は中部横斷面《ちゆうぶわうだんめん》に於《おい》て二十二|呎《ヒート》七|吋《インチ》、艇《てい》の形《かたち》は、恰《あだか》も南印度《みなみインド》の蠻人《ばんじん》が、一撃《いちげき》の下《もと》に巨象《きよざう》を斃《たほ》し、猛虎《まうこ》を屠《ほふ》るといふ投鎗《なげやり》の形《かたち》に髣髴《ほうふつ》として、其《その》兩端《りようたん》は一種《いつしゆ》[#ルビの「いつしゆ」は底本では「しつしゆ」]奇妙《きめう》の鋭角《えいかく》をなして居《を》る、此《この》鋭角《えいかく》の度《ど》が、艇《てい》の速力《そくりよく》に關《くわん》して、極《きわ》めて緊要《きんえう》なる特色《とくしよく》の相《さう》である。艇《てい》の上部艇首《じやうぶていしゆ》の方《かた》に位《くらゐ》して、一個《いつこ》の橢圓形《だゑんけい》の觀外塔《くわんぐわいたふ》が設《もう》けられて、塔上《たふじやう》には、一本《いつぽん》の信號檣《しんがうマスト》の他《ほか》には何物《なにもの》も無《な》く、其《その》一端《いつたん》には自動開閉《じどうかいへい》の鐵扉《てつぴ》が設《もう》けられて、艇《てい》の將《まさ》に海底《かいてい》に沈《しづ》まんとするや、其《その》扉《とびら》は自然《しぜん》に閉《と》ぢ、艇《てい》の再《ふたゝ》び海面《かいめん》に浮《うか》ばんとするや、其《その》扉《とびら》は忽然《こつぜん》として自《おのづか》ら開《ひら》くやうになつて居《を》る。艇《てい》の全體《ぜんたい》は盡《こと/\》く金屬《きんぞく》を以《もつ》て構成《こうせい》せられ、觀外塔《くわんぐわいたふ》、上甲板《じやうかんぱん》、兩舷側《りようげんそく》はいふ迄《まで》もなく、舵機室《だきしつ》、發射室《はつしやしつ》、艇員居室等《ていゐんきよしつとう》、すべて一種《いつしゆ》堅強《けんきよう》なる裝甲《さうかう》をもつて保護《ほご》されて居《を》る、此《この》裝甲《さうかう》は現今《げんこん》專《もつぱ》ら行《おこな》はれて居《を》るハーベー[#「ハーベー」に傍線]式《しき》の堅硬法《けんかうほふ》を施《ほどこ》したる鋼板《こうはん》若《もし》くは白銅鋼板等《はくどうこうばんとう》よりは、數層倍《すうそうばい》の彈力性《だんりよくせい》と抵抗力《ていこうりよく》を有《いう》する或《ある》新式裝甲板《しんしきさうかうばん》にて、櫻木海軍大佐《さくらぎかいぐんたいさ》が幾星霜《いくせいさう》の間《あひだ》、苦心《くしん》に苦心《くしん》を重《かさ》ねた結果《けつくわ》、六種《ろくしゆ》の或《ある》金屬《きんぞく》の合成《がうせい》は、現世紀《げんせいき》に於《お》ける如何《いか》なる種類《しゆるい》の彈丸《だんぐわん》又《また》は水雷等《すいらいとう》をもつて突撃《とつげき》し來《きた》るとも、充分《じゆうぶん》之《これ》に抵抗《ていこう》し得《え》て餘《あま》りありと信《しん》じて、其《その》新式合成裝甲板《しんしきがうせいさうかうばん》を、此《この》海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》の各要部《かくえうぶ》に應用《おうよう》したのである。
此《この》艇《てい》の外形《ぐわいけい》は以上《いじやう》の如《ごと》くであるが、さて海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》が敵艦《てきかん》を轟沈《がうちん》するには、如何《いか》なる方法《てだて》に依《よ》るかといふに、それは二種《にしゆ》の異《ことな》つたる軍器《ぐんき》の作用《さよう》に依《よ》るのである。今《いま》は工事中《こうじちゆう》であるから、明瞭《あきらか》に知《し》る事《こと》は出來《でき》ぬが、其《その》一種《いつしゆ》は艇《てい》の前端《ぜんたん》に裝置《さうち》されたる極《きは》めて強硬《きようこう》なる、また極《きは》めて不思議《ふしぎ》なる「衝角《しやうかく》」一名《いちめい》「敵艦衝破器《てきかんしやうはき》」と呼《よ》ばれたる軍器《ぐんき》で、此《この》衝角《しやうかく》は世《よ》の常《つね》の甲鐵艦《かうてつかん》又《また》は巡洋艦等《じゆんやうかんとう》に裝置《さうち》されたものとは痛《いた》く異《ことな》りて、其《その》形《かたち》は三尖形《さんせんけい》の極《きは》めて鋭利《えいり》なる角度《かくど》を有《いう》し、艇《てい》の前方《ぜんぽう》十七|呎《ヒート》以上《いじやう》に突出《とつしゆつ》して、其《その》鋭利《えいり》なる三尖衝角《さんせんしやうかく》は艇内發動機《ていないはつどうき》の作用《さよう》にて、一秒時間《いちびやうじかん》に三百|廻轉《くわいてん》の速力《そくりよく》をもつて、絞車《こうしや》の如《ごと》く廻旋《くわいせん》するのであるから、此《この》衝角《しやうかく》の觸《ふ》るゝ所《ところ》、十四|吋《インチ》半《はん》以上《いじやう》の裝甲《アーモア》を有《いう》する鐵艦《てつかん》の他《ほか》は、殆《ほと》んど粉韲《ふんさい》せられざるものは有《あ》るまいと思《おも》はるゝ、然《しか》し此《この》三尖衝角《さんせんしやうかく》は、此《この》海底戰鬪艇《かいていせんとうてい》に左程《さほど》著《いちじ》るしい武器《ぶき》ではない、更《さら》に驚《おどろ》く可《べ》きは、艇《てい》[#ルビの「てい」は底本では「てん」]の兩舷《りようげん》に裝置《さうち》されたる「新式併列旋廻水雷發射機《しんしきへいれつせんくわいすいらいはつしやき》」で、此《この》水雷發射機《すいらいはつしやき》の構造《かうざう》の、如何《いか》に巧妙《こ
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