でも入って居るだろう」と、猶およく箱の中を調べて見ると、果して玉村侯爵自筆の短い書面が出た、伯爵は手に取って夫れを読み下せば――
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一、この腕環は、玉村侯爵家に、祖先より伝われる名誉ある宝物《ほうもつ》なり、新年の贈物にと貴家に呈す、但し一個の外は無ければ、三人の令嬢の内、この年の暮に、最も勇ましき振舞を為《な》せし人、この腕環を得べき権利あり、而《しこう》して此腕環を得し人は、同時に更に多くの宝物を得べき幸運を有す、
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と書いてあった。

  二 三人姫君

「オヤオヤオヤ」と、一番目の娘と二番目の娘とは顔を見合せた。
 伯爵は三人の娘の顔を打眺《うちなが》め、黄金《おうごん》の腕環《うでわ》を再び自分の手に取って、「玉村《たまむら》侯爵は相変らず面白い事をする人だ、この腕環は侯爵家の祖先|照子《てるこ》姫と云《い》う人の用いたもので、世の貴婦人達の羨《うらや》む珍品である、之《こ》れを三人の娘の内、この年の暮に最も勇ましい振舞をしたものに与えると云う、然《しか》し年の暮と云えば、今日《きょう》は十二月三十一日の夜、今夜中に誰《だれ》が一
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