た。
玉村侯爵とは松浪伯爵の兄君で、三人の娘には伯父君《おじぎみ》[#ルビの「おじぎみ」は底本では「ぎみ」]に当って居《お》る、余程面白い人で、時々いろいろ好奇《ものずき》な事をする。
伯爵は侯爵の送って来た箱を開けて見て、
「マア、非常に綺麗な腕環が入って居る」と、夜光珠《ダイヤモンド》や真珠の鏤《ちりば》めてある、一個の光輝燦爛《こうきさんらん》たる黄金《おうごん》の腕環を取出した。
一番|年長《としうえ》の娘は、直《す》ぐに夫れを父伯爵の手から借りて見て、
「まあ何んと云う綺麗な腕環でしょう、之れは屹度《きっと》伯父様から、妾《わたくし》に贈って下さったのですよ」と云えば、二番目の娘は横合から覗込《のぞきこ》んで、
「いいえ、伯父様と妾《わたくし》と大の仲好しですもの、妾に贈って下さったに相違はありません」と争う。
三番目の娘は其名《そのな》を露子《つゆこ》と云う、三人の中でも一番美しく、日頃から極く温順な少女なので、此時も決して争う様な事はせず、黙って腕環を眺めて居る。
父伯爵は微笑を浮べて、
「イヤ待て、腕環は一個《ひとつ》で、娘は三人、誰に贈るのか分らぬ、何か書付
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