高い。
頃《ころ》は十二月三十一日の夜、明日《あす》はお正月と云う前晩だが、何不自由なき貴族の事とて、年の暮にテンテコ舞する様な事は無い、一家は数日以前から此《この》別荘に来て、今宵《こよい》も三人の娘は先程より、ストーブの熾《さか》んに燃える父伯爵の居間に集り、いろいろ面白い談話《だんわ》に耽《ふけ》って居《お》る、その面白い談話と云うのは、好奇《ものずき》な娘達が頻《しき》りに聴きたがる、妖怪《ようかい》談や幽霊物語の類で、談話《はなし》上手の伯爵が、手を振り声を潜め眼を円くして、古城で変な足音の聴えた事や、深林に怪火《あやしび》の現われた事など、それから夫《そ》れへと巧《たくみ》に語るので、娘達は恐《こわ》ければ恐い程面白く、だんだん夜の更けるのも知らずに居った。
すると此時|忽《たちま》ち室《へや》の扉《と》がスーと明いて、入って来たのは此家の老|家扶《かふ》で、恭しく伯爵の前に頭を下げ、「殿様に申上げます唯今《ただいま》之れなる品物が、倫敦《ロンドン》の玉村《たまむら》侯爵家より到着致して御座います」と、一個の綺麗《きれい》な小箱を卓子《テイブル》の上に戴《の》せて立去っ
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