むやうに下界《した》に墜《を》ちてゆくのがわかつた。やがてそれも見《み》えなくなつてしまつた。ペンペはどうなつたらうか。
『ああ、いい塩梅《あんばい》に墜《を》ちやがつた。自分《じぶん》の眼玉《めだま》を喰《く》ふなんて阿呆《あほう》がどこにゐる。ペンペの邪魔《じやま》さえゐなけりや、もう後《あと》はをれのものだ。』
ラランはいつものやうに、カラカラと笑《わら》つた。五千メートル。いつもならこの辺《へん》へ来《く》るまでに疲《つか》れて墜《を》ちてしまう筈《はづ》なのに、今度《こんど》は莫迦《ばか》に調子《てうし》がいい。けれども鼻唄《はなうた》[#ルビの「はなうた」は底本では「はねうた」]まじりに頂上《てうじやう》を目指《めざ》してるラランも、ひとりぼつちになると、やつと疲《つか》れが出《で》てきた。鼻唄《はなうた》もくしゃみになつてしまつた。〔ヱヴェレストは思《おも》つたより遠《とほ》いな〕と独言《ひとりごと》しながら四辺《あたり》を見廻《みまは》すと、薄《うす》い日《ひ》の光《ひかり》が美《うつく》しく妖《あや》しく漲《みなぎ》つて、夕暮《ゆふぐれ》近《ちか》くなつたのだらう。
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