下界《した》を見《み》ても、雲《くも》や霧《きり》でまるで海《うみ》のやうだ。悪《わる》いラランも少《すこ》しばかり寂《さび》しくなつてきた。今度《こんど》こそ腹《はら》も減《へ》つてきた。すると突然《とつぜん》、ヱヴェレストの頂上《てうじやう》から大《おほ》きな聲《こえ》で怒鳴《どな》るものがあつた。
『ラランいふのはおまへか。ヱヴェレストはそんな鴉《からす》に用《よう》はないぞ。おまへなんぞに来《こ》られると山《やま》の穢《けが》れだ。帰《かへ》れ、帰《かへ》れ。』
 山《やま》全体《ぜんたい》が動《うご》いたやうだつた。急《きふ》に四辺《あたり》が薄暗《うすくら》くなり、引《ひ》き裂《さ》けるやうな冷《つめた》い風《かぜ》の唸《うな》りが起《おこ》つてきたので、驚《おどろ》いたラランは宙返《ちうがへ》りしてしまつた。そこへまた、何《なに》か雷《かみなり》のやうに怒鳴《どな》る聲《こえ》がしたかと思《おも》ふと、小牛《こうし》ほどもある硬《かた》い氷《こほり》の塊《かたまり》がピユーツと墜《を》ちてきて、真向《まつこう》からラランのからだを撥《は》ね飛《と》ばした。アッと叫《さけ》
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