ぶ間《ま》もなく、気《き》を失《うしな》つたラランは、恐《おそ》ろしい速《はや》さでグングンと下界《した》に墜《を》ちていつた。
 もう夜《よ》になつた頃《ころ》だ。深《ふか》い谷間《たにま》の底《そこ》で天幕《テント》を張《は》つた回々教《フイフイけう》の旅行者《りよかうしや》が二三|人《にん》、篝火《かがりび》を囲《かこ》んでがやがや話《はな》してゐた。
『まさか不思議《ふしぎ》なもんだ。両方《りやうはう》の眼玉《めだま》が無《な》い鴉《からす》なんて、どうしたこつた。』
『猟師《れふし》に撃《う》たれた様子《やうす》でもなかつたし。』
『でもここいらの岩角《いはかど》に打《う》ちつけられちや、なんぼでも生命《いのち》は無《な》いにきまつてらあ。』
『そりやさうだ。とにかく可哀《かあい》さうなやつよ。』
 これは多分《たぶん》あのペンペの噂《うはさ》に違《ちが》ひない。すると元気《げんき》で正直《しやうじき》なペンペも死《し》んでしまつたのか。そんな話《はなし》の最中《さいちう》にサァーツと音《おと》をたてゝ漆《うるし》のやうに暗《くら》い空《そら》の方《はう》から、直逆《まつさか
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