て、他の子供達に劣らなかつた。が、喚き立てる子供達の当て擦《こす》りの下卑《げび》た荒々しい言葉が、あの緊密|相《そう》な男の子の神経にかなり深刻に響いて、彼をいかに焦立《いらだ》たせるかとはらはらして堪《たま》らない気もした。それでゐてお涌自身も、子供達と一しよにますます喚き立て度《た》い不思議な衝動にいよ/\駆られるのであつた。お涌はさういふ気持ちで喚く時、脊筋《せすじ》を通る徹底した甘酸《あまずっぱ》い気持ちに襲はれ頸筋《くびすじ》を小慄《こぶる》ひさせた。
 窓からは皆三の憤怒《ふんぬ》に歪《ゆが》んだ顔が現はれ
「ばか――」
 と叫ぶのだが、その語尾はおろ/\声の筋をひいて彼自身の敗北を示してゐた。そのとき子供達はもう井戸の柵のところまで立退《たちの》き凱歌《がいか》を挙げてゐる。
 さういふ時の皆三と、今、自分に蝙蝠を譲つて欲しいと女中にいはせに来た皆三とは、別人のやうにお涌には感じられたが、しかし、ともかくあの変つた男の子がゐて、そして町内の子どもが誰も見たことのない神秘の家へ自分ひとり入つて行くことは、お涌に取つて女中のために蝙蝠を運んで行つてやる侠気《きょうき》以上の
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