たまゝ、しつかり腕を組み合せ、唇を噛んで見入つてゐた。
「お呉《く》れよ、お呉れよ」
とまはりの子供達が強請《せが》む中に、平太郎はお涌を見つけると愛想笑ひをして
「お涌ちゃんに、これ、やらうね、さあ」
といつて、抓み方を教へ乍《なが》ら、お涌にこの小さい動物を指移しに渡した。
お涌は、不気味さに全身緊張させ、また抓んだ指さきの肉翅のあまり華奢《きゃしゃ》で柔かい指触りの快いのに驚きながら、その小動物を自分の体からなるたけ離すやうにして、そろ/\自宅の方へ持ち運んで行つた。お涌に蝙蝠を取られた他の子供達がうしろから嫉妬《しっと》の喚きを立てゝ囃《はや》した。
お涌が、自宅の煉瓦塀《れんがべい》のところまで来ると、あとから息せき切つて馳《か》けて来た日比野の家の女中が声をかけて
「お嬢さま、あなたが蝙蝠をお貰《もら》ひになつたのを、うちの坊ちやまが窓から御覧になつてまして、是非《ぜひ》標本に欲しいから、頂いて来て呉れろと仰言《おっしゃ》いますので…………ほんたうに御無理なお願ひで済みませんが…………坊ちやまのお母さまもお願ひして来るように仰言いますので…………」
お涌は、大人の
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