ぬ》れた道を遠泳会の一行は葛西川《かさいがわ》の袂《たもと》まで歩いた。そこから放水路の水へ滑《すべ》り込《こ》んで、舟に護《まも》られながら海へ下って行くのだ。
 小初が先頭に水に入った。男生、女生が二列になってあとに続いた。列には泳ぎ達者が一人ずつ目印の小旗を持って先頭に泳いだ。
 水の濁りはだいぶとれたが、まだ草の葉や材木の片が泡《あわ》に混って流れている。大潮の日を選んであるので、流れは人数のわずかな遠泳隊をついつい引き潮の勢いに乗せて海へ曳《ひ》いて行く。
 靄に透けてわずかに見える両岸が唯一の頼みだった。小初のすぐあとに貝原が目印の小旗を持って泳いで来る。薫はときどき小初の側面へ泳ぎ出る。黙って泳いでいる。生徒達は今日の遠泳会を一度も船へ上って休まず、コースを首尾好《しゅびよ》く泳ぎ終《おお》せれば一級ずつ昇級するのである。彼|等《ら》は勇んで「ホイヨー」「ホイヨー」と、掛声を挙げながら、ついて来る。
 行く手に浮寝《うきね》していた白い鳥の群が羽ばたいて立った。勇み立って列の中で抜手《ぬきて》を切る生徒があると貝原が大声で怒鳴《どな》った。
「くたびれるから抜手を切っちゃ
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