は昨夜よりまだ重かった。寝巻|一重《ひとえ》の肌《はだ》はうすら冷たい。
「秋が早く来過ぎたかしらん」
小初は独りごちながら窓から外を覗いてみた。
靄《もや》だ。
よく見ていると靄は水上からだんだん灰白色の厚味を増して来る。近くの蘆洲は重たい露《つゆ》でしどろもどろに倒れている。
今日は青海流水泳場の遠泳会の日なのである。
小初は気が重かった。体もどこか疲れていた。けれども、父親の老先生が朝食後ひどく眩暈《めまい》を催《もよお》して水にはいれぬことになってしまったので、小初先生が先導と決った。
十時頃から靄は雨靄と変ってしまった。けだるい雨がぽつりぽつり降って来た。
小初は気のない顔をして少しずつ集って来る生徒達に応待していたが、助手格の貝原が平気な顔で見張船の用意に出かけたりする働き振りに妙《みょう》な抵抗《ていこう》するような気持が出て、不自然なほど快活になった。
「みなさん。大丈夫よ。いまじき晴れて来ますわよ」
小初が赤い小旗を振って先に歩き出すと、雨で集りの悪い生徒達の団体がいつもの大勢の時より、もっと陽気に噪《はしゃ》ぎ出した。
薫も途中から来て交った。濡《
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