渾沌未分
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)跳《は》ね込《こ》み台

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夏|稼《かせ》ぎ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)掻き※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》らりょうか
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 小初は、跳《は》ね込《こ》み台の櫓《やぐら》の上板に立ち上った。腕《うで》を額に翳《かざ》して、空の雲気を見廻《みまわ》した。軽く矩形《くけい》に擡《もた》げた右の上側はココア色に日焦《ひや》けしている。腕の裏側から脇《わき》の下へかけては、さかなの背と腹との関係のように、急に白く柔《やわらか》くなって、何代も都会の土に住み一性分の水を呑《の》んで系図を保った人間だけが持つ冴《さ》えて緻密《ちみつ》な凄《すご》みと執拗《しつよう》な鞣性《じゅうせい》を含《ふく》んでいる。やや下ぶくれで唇《くちびる》が小さく咲《さ》いて出たような天女型の美貌《びぼう》だが、額にかざした腕の陰影《いんえい》が顔の
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