初の挙動に気をつけていた。
小初は四日目に来た薫を、ちょっと周囲から遠ざかった蘆洲の中の塚山《つかやま》へ連れて行った。二人は甲羅干《こうらぼし》の風をしながら水着のまま並んで砂の上に寝《ね》そべった。小初は薫を詰《なじ》るように云った。
「あんた、何でもあたしの方から仕向けなければ……狡《ずる》いのか、意気地《いくじ》なしなのか、どっちなのよ」
小初の言葉のしんにはきりきり真面目さが透《とお》っていながら手つきはいくらかふざけたように、薫の背筋の溝《みぞ》に砂をさあっと入れる。
「よしよ。僕《ぼく》、今日苦しんでるんだ」
薫は肘《ひじ》で払い除《の》けるが、小初は関《かま》わず背筋へ入れた砂をぽんぽんと平手で叩《たた》き均《な》らして、
「ちっとも苦しんでるように見えないわ」
「この間、水の中で君に…………、こんなに腫《は》れた」
薫は黒くなっている唇の角をそうっと大事に差し出して見せる。
「あら、それで怒《おこ》ってるの」
「違う――君はとても強い。なまじっかなこと云い出せないもの」
じりじりと照りつける陽の光と腹匍《はらば》いになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下
前へ
次へ
全41ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング