う」
小初は、もう料理のコースの終りのメロンも喰べ終って、皮にたまった薄青い汁を小匙《こさじ》の先で掬《すく》っていた。
ふっとした拍子《ひょうし》に貝原と小初は探り会う眼を合せた。
「今夜、何か話があるの」
小初の義務的な質問が、小初の顔立ちを引締まらせた。小初がずっと端麗《たんれい》に見える。その威厳《いげん》がかえって貝原を真向きにさせた。貝原は悪びれず、
「相当な年配の男のいうことですから、あなたも本気で聴《き》いて下さい。これは家内とも相談しての上ですから――まあ、私だちちっぽけなりにも身上も出来てみれば、出来のいい品のある子供が欲しいです。うちに一人ありますが、ひと口に云うとから駄目《だめ》なのです。人を扱いつけてる職業ですから私にはすぐ判ります。血筋というものは争われません。何代か前からきっと立派な血が流れて来ていて、それが子孫に現われて来るんですね」
「これは家内とも相談ですが」と貝原は再び儀式的の掛け合いのように念を押して、
「小初先生。世の中には、相当な知識階級の女でも、何か資金の都合のため、人の世話になるという手があります。先生をおもちゃにする気は毛頭ありま
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