ぼ》けて貝原に訊《き》いた。貝原は何の衝動《しょうどう》も見せず
「そんなところへ、若い女の先生を連れて来はしません」と云った。
「でも、いま時分、こんなに遅く、いいのかしらん」
「なに、ちっとばかり、資金を廻してある家なので、自由が利くんです」
涼しい食物の皿《さら》が五つ六つ並んで、腹の減った小初が遠慮《えんりょ》なく箸を上げていると、貝原はビールの小壜《こびん》を大事そうに飲んでいる。ぽつぽつ父親の噂《うわさ》を始めた。
「どうも、うちの老先生のようじゃ、とても身上《しんしょう》の持ち直しは覚束《おぼつか》ないですねえ。事業というものは片っぽうで先走った思い付きを引締《ひきし》めて、片っぽうはひとところへ噛《かじ》り付きたがる不精《ぶしよう》な考えを時勢に遅れないように掻き立てて行く。ここのところがちょっとしたこつです。ところが、老先生にはこの両方の極端のところだけあって、中辺のじっくりした考えが生れ付き抜けていなさる。これじゃ網のまん中に穴があるようなもので、利というものは素通りでさ」貝原は、父親には、反感を持っていないようなものの、何の興味もないらしい口調だった。
「あたし
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