冷し白玉を喰べ、東京でも東寄りの下町の小さい踊り場を一つ二つ廻って、貝原はあっさり小初の相手をして踊る。
この界隈の踊り場には、地つきの商店の子弟が前垂《まえだれ》を外して踊りに来る。すこし馴染《なじみ》になった顔にたまたま小初は相手をしてやると、
「へえ、へえ、済みません」
お客にするように封建的《ほうけんてき》な揉《も》み手《て》をして礼をいう。小初はそれをいじらしく思って木屑臭《きくずくさ》い汗の匂《におい》を我慢《がまん》して踊ってやる。
ときどき銀座界隈へまで出掛《でか》けることもある。そうすると今度はニュー・グランドとか風月堂とかモナミとか、格のある店へ入る。そこのロッジ寄りに席を取って、サッパーにしては重苦しい、豪華《ごうか》な肉食をこの娘はうんうん摂《と》る。貝原は不思議がりもせず、小初をこういう性質もある娘だと鵜呑《うの》みにして、どっちにも連れて行く。
月が、日本橋通りの高層建築の上へかかる時分、貝原は今夜は珍《めず》らしく新川|河岸《かし》の堀に臨む料理屋へ小初を連れ込んだ。
「待合《まちあい》?」
小初は堅気《かたぎ》な料理屋と知っていて、わざと呆《と
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