もぎ》の若葉の密生した上へ蹲《うずくま》った。
「恰好《かっこう》が好いとか悪いとか云ったって僕には自分の恰好さえ見えないんだもの」
三木雄はまだ停っている。智子はもう一ぺん背延びして思い切って三木雄の手を捉えた。
「さ、触ってごらんなさい。あなたのお体がどんなに均整のとれた立派な恰好だか判りますわ。序《ついで》に私のも……智子も今日は青いクレープデシンの服に黄色い春の外套だわ」
三木雄は、少し顔を赫めながら智子の持ち添える通り手を遣って自分の体や智子の体の恰好にあらんかぎりの触覚を働かせて行った。
「ね、あなたも智子も素晴らしいんだわ、画や彫刻のモデルにされたって素晴らしいんだわ」
「うん、うん」
目が粗らくて触りの柔い上等のウーステッドの服地から智子の皮膚の一部分へ滑って来た夫の手を智子は一層強く握って一瞬ほっと嬉びに赫らんで行く夫の顔色を視つめたけれど、今度は何故か智子自身がすこし悲しく飽き足りない思いがした。「夫に引きいれられてはいけない」智子は内心きっとなった。そして自分はどこ迄もこの盲青年の暗黒世界を照らす唯一の旗印でなくてはならないものをと気を取り直した。
「この
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