「あなたね。行き合う人がみんなあなたを見返るのよ。」
「…………」
「あなたのお洋服が好くお体に似合うからよ」
「…………」
 三木雄は今までよりも杖を急にせわしく突き初めた。歩調が高まって余計さっさと歩き出した。智子はこの頃少しずつ気むずかしくなった三木雄のことを考えて素直に黙ってついて行った。
 ある丘のなぞえの日当りに来ると三木雄は停ちどまった。
「智子、僕そんなにおかしく見えるか。」
「何云っていらっしゃるの、あなたは、めったにない程お立派ですわ」
「何故人が見る」
「あら先刻私が云ったこと間違ってとってらっしゃるの、何も皮肉じゃないのよ。本当にお立派だから人が振り返るのよ。私、実に好い服地と服屋をあなたに見つけたと思って自慢しようと思って云ったのよ」
「…………」
 三木雄はうなだれた。杖の先が金具ごとぐっと砂交りの赫土にめり込んだ。
「あなたはこの頃少し、ひがみっぽくなってらしったわ……ま、とにかく茲《ここ》へ坐りましょうよ。休みながらお話しましょう」
 智子はやや呆《ほお》けた茅花《つばな》の穂を二三本手でなびけて、その上に大形の白ハンカチを敷いた。そして自分は傍の蓬《よ
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