夢中で狂気染みた沙汰を醒めて冷く指摘されたように、口|銜《くぐま》り、みると額に冷汗までかいている。「この大根、嫁かずであれ、――今に」そういうかと思うと、たちまち、男はまた、不器用にも俊敏に去った。
 女は、何となく本意なく、富士の高嶺を見上げた。その姿は、いま眼のまえに横っている小雄鹿の死と同じ静謐さをもって、聳えて揺り据っている。今日も鳥が渡っている。

 男はそのかみ、神武御東征のとき、偽者《にしもの》土蜘蛛と呼ばれ、来目《くめ》の子等によって征服されて帰順した、一党の裔《すえ》であった。その祖先は天富命《あめのとみのみこと》が斎部の諸氏《もろうじ》を従え、沃壌地《よきところ》を求《ま》き、遥に、東国の安房の地に拓務を図ったのに、加えられて、東国に来り住んだ。種族の血を享けてか、情熱と肉体の逞しさだけあって、智慧は足りない方だった。彼は強いままに当時の上司の命を受けて、東国の界隈の土蜘蛛の残りの裔を討伐に向った。たまたまこの佐賀牟の国の富士の山麓まで遠征した。
 一方女は水無瀬女と獣の神の若者との間から生れ出て多くの門裔がこの麓の地に蔓《はびこ》ったその宗家の娘であった。祖先の
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