富士
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)拳《こぶし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一二尺|掠《かす》り除《のぞか》れて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「水/(水+水)、第3水準1−86−86]

 [#…]:返り点
 (例)汝所[#レ]居山、
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 人間も四つ五つのこどもの時分には草木のたたずまいを眺めて、あれがおのれに盾突くものと思い、小さい拳《こぶし》を振り上げて争う様子をみせることがある。ときとしては眺めているうちこどもはむこうの草木に気持を移らせ、風に揺ぐ枝葉と一つに、われを忘れてゆららに身体を弾ませていることがある。いずれにしろ稚純な心には非情有情の界を越え、彼《ひ》と此《し》の区別を無《な》みする単直なものが残っているであろう。
 天地もまだ若く、人間もまだ稚純な時代であった。自然と人とは、時には獰猛《どうもう》に闘い、時には肉親のように睦《むつ》び合った。けれどもその闘うにしろ睦ぶにしろ両
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