を失いかけている小雄《さお》鹿を、その男と共に、無駄なことの犠牲になった悲運のものと思うだけだった。ただ、しゅくしゅく鳴きながら苦しみを訴える鹿の眼の懸命に戸惑う瞳の閃きに一点の偽りもないのを見ると掻き抱いてやり度いようだった。
男は口を二三度もぐもぐさしたが、やはりいい出せなかった。女の方が却って男の不器用を察して気ずつない思いを紛《まぎ》らすために、わきを向きながら小さな声で唄った
など 黥《さ》ける利目《とめ》
など 黥《さ》ける利目《とめ》
これは、男の顔を、ちらと見たとき、自然と思い浮べられた歌の文句だった。
この薑《はじかみ》、口疼《ひび》く
男は、叫ぶと猛然、女の代りに鹿に飛びかかって、毛深く逞しい拳を振り上げて、丁々と撃った。すでに傷き片息になっている毛もの[#「もの」に傍点]のこととて、※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》くまもなく四股をくいくいと伸して息絶えた。なべてものの死というものの、何かおかしみがありながら頭を下げずにはいられない神秘を女は見透した。
「なんて、可哀相なことをなさるの」
女は務めのようにそういった。
男は、
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