。手は所在なさそうに、摘み取った桔梗の枝の莟で、群る渚の秋花を軽くうっている。
男の心の中に、表現し得ずして表現し度い必死の気持が、歯噛みをした。
事実、男の歯はぱりぱりと鳴った。
男は切なく叫ぶ、
「この大根《おおね》、嫁《とつ》かずであれ、――今に」
といい、あとをも見ずに駈け去った。その走り方は、不器用な中に鳥獣のような俊敏さがあった。
女は、きゅっきゅっと上態を屈めて笑った。男が精一杯のやけ[#「やけ」に傍点]力を出して自分をこの蕪野な蔬菜に譬えたのがおかしかった。
女は笑いながら、しかし拵《こしら》えたものでなく、自然に、このことをおかしみ笑える自分を、男に見せられなかったのを残念に思った。そこにすでに男の虚勢を見透し、見透すがゆえに、余裕|綽々《しゃくしゃく》とした自分であることを男に示したかった。その余裕から一層男を焦《じ》らせて、牽付け度い女の持前の罪な罠もあろう。
笑ったあとで、女は富士を見上げた。はつ秋の空にしん[#「しん」に傍点]と静もり返っている。山は自分の気持の底を見抜いていて、それはたいしたことはない、しかしいまの年頃では真面目にやるがよいとい
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