て来たであろうことを察して、悪寒《おかん》のある身慄いをした。と同時に不思議や亀縮《かじか》んでいた異性に対する本能の触手が制約の撻《むち》を放れてすくと差し延べられるのを感じた。
 男は苦しく薄笑いしながら、
「じゃ、こんな話は止めにしましょう、だがね、お嬢さん、洞の外は、すっかり春でしょう。青々とした春でしょうねえ。うらやましいこった」
 といったときには、女はもうこの男の傍を離れ難くなっていた。女は、
「たとえ、この男が、伯母さんに失恋した、いわば伯母さんの剰りものにしたところで、いいや、あたしはこの男を得るかも知れない。あたしはもう伯母さんに嫉みも恨みもなくなった。伯母さんにはまた伯母さんとしてのたくさんな担いものがあるらしいから」
 胸にこう自問自答して、女は洞の中の男の傍に介抱すべくとどまった。

 山は晴れ、麓の富士桜は、咲きも残さず、散りも始めない一ぱいのときである。洞から水を汲みに出た水無瀬女は、浅黄の空に、在りとしも思えず、無しと見れば泛ぶかの気の姿の、伯母の福慈の女神に遇った。
 女神はころころと笑った。
「水無瀬女よ、めぐし姪姫よ。山と岳神と二つになってる時代は
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