た。その衣の裾が岩床に敷くまわりに一ぱい痰《たん》が吐き捨ててあった。その痰の斑には濃い緑色のところと、黄緑色のところと、粘り白いところとある。淡く白いのは唾らしく無数の泡を浮べていた。眉をひそめて、それを眺めていると見て、男はそれを指しながらいった。
「こいつ等が、咽喉にうにょうにょして停滞しているときは、全く無作法な獣たちですね。私はそれが邪魔だから吐き出す。だがその度びに私から獣としてのいのちは吐き出されて行き、そのあとに果して人間のいのちが私に盛り上って来るか判りゃしません。いくらあの方が神仙の乳を飲まして下すったって……」
 いうことがどういうふうに女に響くか窃視《ぬすみみ》したのち、
「ねえ、お嬢さん。それで私はこの憎らしい、私を苦しめる痰を、吐き出すときに、一々、舌の上に載せて味ってやるんですよ。獣のいのちの名残りにしてそれには淡く塩辛いのもあり、いくらか甘くて――」
 といいかけたとき、女は急いで袖を自分の鼻口に当て手を差し出して止めた。
「もういいもういい。話は判っててよ」
 女は、この類《たぐ》いで、この若き獣神が生きとし生けるものの醜悪の底の味いを愛惜し、嘗め潜っ
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