になって来た。もうじきそこに刀が突立てられるだろう。そしてその皮膚の切口から喜劇的な粒米がぼろぼろ現れたら世界一恥かしいことだ。
「そのときおれはどうしたら宜いんだろう」
作太郎は眼を瞑って人はどうしてこういうとき死なないのだろうと悔いながら何の救《たす》けも見出されない今の自分を世の中のたった一人の孤独と感じた。
食[#二]半餅[#一]喩
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或人が食に飢え七枚の煎餅《せんべい》を喰べた。だが七枚目を半分喰べた時満腹したので彼は言った、「今の半分の為に私の腹はくちくなったのだ、だから先の六枚は喰べなくてもよかったのに」
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明るい早春のサンルームで愛の忍堪力の試験。
イエツ教授の娘のマーガレットはこういう実験のプランを可愛ゆいとき色の小脳の襞《ひだ》から揉《も》み出して支度《したく》にかかった。――招待状、英国風の朝飯、その朝すこしの風も欲しい。
恋人の三木本は約束の時間にやって来た。オースチンリードで出来合いをすこし直さしたモーニングの突立った肩が黄いろい金鎖草の花房に臆《お》じた挨拶をしながら庭の門を入る。東洋風の鞣
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