》うる人身御供《ひとみごくう》として案内人を殺した。案内人を失った隊商等の運命は如何。
[#ここで字下げ終わり]
 ×××で雇い入れた案内者は不思議な男だった。
「ほんとうの案内者は殺されてから案内する」
 こんなことをいった。みんなは大して気にも留めなかった。一つはこの案内者の見かけが平凡でそこらにざらにある雑種のアラビア人とちっとも違わないし、その上相当に狡《ずる》くもあったのでただ出鱈目《でたらめ》をいう言葉のなかに聞き流した。
 自分の言葉に取り合われぬとき案内者はその平凡な顔の上にかすかな怒りを見せた。
 隊商は出発した。沙漠は無限だった。駱駝《らくだ》の脚の下にむなしく砂が踏まれていると思うような日が幾日も続いた。太陽だけが日に一つずつ空に燃えて滓《かす》になった。
 この広漠たる沙漠のなかを案内者は杖を振り先頭に立って道を進めた。自信のある足取で行路を指揮する権威ある態度の彼は立派な案内者だった。
 砂丘の蔭に石で蓋《ふた》のしてある隠し水の在所も迷うことなく探し宛《あ》てた。太陽が中天に一休みして暑さと砂ほこりにみんなが倦《う》み疲れる頃を見はからい彼は唄をうたった。

前へ 次へ
全25ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング