に行かせるのは残念だ。姫は二度とこういう田舎《いなか》へは来ないだろう。野の土くれの存在をああいう虹にうつしとめて置くということは――何だか分らないが、一生の生甲斐《いきがい》になるように思える」
黒黍の蔭を匍《は》ってついて行った陀堀多は、そこで身を伸び上り声を叫ぼうとした。しかし腰は臆して伸びなかった。もう行列の先手は二人ずつ並んで榕樹の林の紫の影に染まって行く。
肥溜《こえだめ》桶があった。鼬《いたち》の死骸が燐《りん》の色に爛《ただ》れて泡を冠《かぶ》っていた。桶杓《ひしゃく》が膿《う》んだ襤褸《ぼろ》の浮島に刺さって居た。陀堀多はその柄を取上げた。あたり四方へ力一ぱい撒いた。
風がその匂いを送って危うく榕樹の林へ入りかけようとする姫の嗅覚に届いた、姫は袖で顔を覆った。
姫に一つの強い感銘を与えたということで陀堀多はほっと満足した。しかし、あの美しいものを不快がらしたと思うといじらしくてならなくなった。
陀堀多は黍の中で泣いた。
殺[#二]商主[#一]祀[#レ]天喩
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一隊商が曠野《こうや》で颶風《ぐふう》に遇った時、野神に供《そな
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