に都合よくさいわい山査子には小さい刺《とげ》があった。

     田夫思[#二]王女[#一]喩

[#ここから3字下げ]
田夫が貴姫を恋するこころを人に打ち明けた。人は「王女に汝《なんじ》の思いを通じたが汝を王女は嫌いと云った」と告げたにも拘らず田夫は強《し》いても王女に自分を認めさせようとした。
[#ここで字下げ終わり]
「世に美しいものとはこの姫のことか」
 陀堀多は畑の中から輿《こし》の姫を眺めた。彼は今、黒黍《くろきび》を刈っていた。
 金銀の瓔珞《ようらく》、七宝の胸かい、けしの花のような軽い輿。輿を乗せた小さい白象は虹でかがられた毛毬《けまり》のように輝いて居た。輿は象の歩るく度《た》びにうつらうつらと揺れた。
 陀堀多は知らず知らず黍の蔭に身を隠しながら姫の姿を追った。
 本あぜ道は榕樹《ガジュマル》の林へ向っていた。そこまではまだ二三町あった。さいわい黍畑は続いて居た。はるかに瑠璃《るり》色の空を刻み取って雪山の雪が王城の二つ櫓《やぐら》を門歯にして夕栄えに燦《きら》めいて居た。夢のような行列はこれ等の遠景を遊び相手にたゆたいつつ行く。
「あの姫にこのおれを認めさせず
前へ 次へ
全25ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング