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いつか一度は
さかなになって
水のお城に水の酒
あの子と二人で水の蚊帳《かや》
ささやれ
涼しい
涼しい
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するとみんなも声を揃えて、涼しい、涼しいと合せるのだった。そして唄う面白さを引出して呉れた彼に感謝の拍手をみんなが送る。と、彼は一応うれしそうな顔はするがその後でぽかんとひとり言のようにまたいうのだった。
「ほんとうの案内者は殺されてから案内する」
みんなは追々《おいおい》彼のこの言葉に何か神秘めくもののあるのに気を付け出した。
×××を出発してから十何日目かの午後だった。行手の蒼空《あおぞら》の裾が一点つねられて手垢《てあか》の痕《あと》がついたかと思う間もなくたちまちそれが拡がって、何百里の幅は黄黒い闇になってその中に数え切れぬほどの竜巻きが銀色の髭を振り廻した。頬に痛い熱砂。駱駝は意気地なく屈《かが》んで仕舞った。
さあ、誰か一人殺さねばならない。隊商の中のみんなが一度にそう思った。そして無気味な顔を見合せた。沙漠のなかで大風に遇うのは天神の怒に触れたものとして隊商のうちの一人を犠牲にして災難を免れるよう祷《いの》らね
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