へ来て色々の原始的生活のようなものを見聞するわ。此所では住民は一つの共同の井戸を中心に五・六軒から十二軒ずつ集まって部落を形成して居ります。井戸の大きい程、金持の家が多く、金持程多数(と言っても三四人)の子供を養育して居ます。彼等は葡萄を栽培して葡萄酒を造るのと小麦と牧畜で自給自足するばかりか多量の葡萄酒と小麦をフランス国中へ売りさばくのです。其の利益金の三割は必ず金貨にして床下に埋めて在る甕《かめ》の中に貯えて置きます。此所の田舎《いなか》の人々はフランス人の文明的仮面をひっぱがした赤裸々の姿を見せて呉れて面白いわ。村人は誰でも「自分は偉い人間だ、自分の妻はどういう所が世界一だ、自分の作る物は一番よい、自分の村は世界一(魅惑的)だ、ひいてフランスは世界の楽園だ、自分等は世界一の幸福者だ、唯一つの不幸は、不平は我々の国が世界一の楽園である為め、世界中から狙《ねら》われて居る事だ。●
だから稼いだお金の大部分は軍備に差し上げて仕舞わねばならぬ、世界全部が相手ですからね。見なさいフランスの陸軍は世界第一ですよ。空軍の為めには全世界に匹敵《ひってき》する程の費用を費して居ますよ。海軍だって仲
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