々強いものですよ」と大自慢をします。だが私共だって英国に就《つ》いて大自慢ですね。此所の女達に政治の事を話しかけると「そんな汚ない、つまらない仕事はドイツかアメリカの馬鹿な女達に任せて置けばよい、我々女達にはもっと女としての立派な仕事がある、御覧なさい、どんな偉い大政治家でも私が一つ微笑して給仕すれば一遍でシャルムされて仕舞いますわ」と大真面目で語るのですよ。ママ一面の真理があると思うの?
アア書き落した一大事があるのよ。其れは此の世界一の楽園に水が欠乏して居る事よ。一杯の水を飲もうとしても数百年前に出来た古い井戸の滑車を五分間も廻さなければ汲み出せないの然《し》かも濁った水よ。駅や小学校の控室には飲用水の代りに葡萄酒が備えてあるの。農夫は野良仕事に葡萄酒を壜《びん》に詰めてぶら下げて行きます。煮炊きするのに水の代りに葡萄酒を使うのよ、それで贅沢じゃないことよ。どの家にも大きな酒樽が五六十個も一杯になって居るわ。イボギンヌは平気で此の酒を飲むのよ、私も少し飲まされるの、でもちっとも悪酔いもしなければ頭痛みもしないのよ、感心したわ。でも紅茶を飲みつけた私はお茶の代りに葡萄酒を呑まされるの
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