母と娘
岡本かの子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)赭《あか》ら
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大戦|終熄《しゅうそく》後
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
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ロンドンの北郊ハムステット丘の公園の中に小綺麗な別荘風の家が立ち並んで居る。それ等の家の内で No.1 の奥さんはスルイヤと言って赤毛で赭《あか》ら顔で、小肥りの勝気な女。彼女に二年前に女学校を卒業したアグネスと言う十九歳の一人娘がある。アグネスは丈が高く胸が張って体全体に男の子のような感じがあるが、でも笑う時は笑くぼや眼の輝やきや、優しい歯並らびが露《あらわ》れて本当に可愛いい少女の容貌になる。
此《こ》の母娘は評判の仲良しで近所の人達は彼女等が姉妹か親友のようだと言う程、何事をも共同でやっていた。中古のガタガタ自動車を安く買い求めて、車庫が無いので前庭の草花の咲いて居る芝生へ乱暴に押し入れて合羽《かっぱ》をかけて置く。郊外へ出かける折りなど蓄音器を積み込んで交代に操縦して行った。以前は家に鍵をかけ二三日留守にし
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