て汽車や徒歩で天幕や食料を分担して勇ましく母娘の小旅行に出かけたのであった。
スルイヤの夫は工業学校出の機械屋《エンジニーヤ》であったが、あの全欧洲の男性を人殺し機械にした欧洲大戦の際、英国陸軍工兵中尉として、生れた許《ばか》りのアグネスに頬ずりして、白耳義《ベルギー》の戦線へ出征して行った。而して間も無く戦死を遂げたのであった。其の後の母娘は遺族恩給で余り贅沢は出来ぬが普通な生活を続けて来た。
夫を失ったスルイヤは一人娘を育てる傍《かたわ》ら新しい進歩主義を奉ずる婦人団体へ入って居た。其の団体は大戦当時ですら敢然不戦論を主張し平和論を唱導して居たが大戦|終熄《しゅうそく》後は数万の未亡人を加えて英国の一大勢力となって来た。やがてアグネスは女学校へ通うようになった。始めの一年間は寄宿生活をした。土曜から日曜へかけて家へ帰って来た。女学校に於ける彼女の生活は仲々活溌なものであった。殊《こと》にメリー女王殿下の閲兵を受けるエンパイヤ・デー(帝国紀念日)の女軍観兵式にはアグネスは女士官として佩剣《はいけん》を取って級友を率《ひき》いた。級友は彼女を其の父の位の通りアグネス中尉閣下と囃《は
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