字下げ]
――およしってば、連れがあるんだよ。」
[#ここで字下げ終わり]
流石に人中を憚《はばか》ってジャネットは羽がいじめの下でわめいた。――わめき乍らジャネットが新吉の方へ救いを求めるように手を出したので、その方向を辿って男は新吉を見つけると、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――青二才だな。」
[#ここで字下げ終わり]
そう言って女を離した。それから新吉の傍まで来るとちょいと顔を覗いて、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――おまえ西班牙人《スパニッシュ》か、しっぽりとやんな。」
[#ここで字下げ終わり]
巌丈な手で新吉の肩を痛いほど叩いて彼は行き過ぎた。中年過ぎた鬚《ひげ》の削《そ》りあとが青い男で、頬や眉の附根に脂肪の寄りがあり、瘤《こぶ》の寄ったような人相だが、どこか粋《いき》でどっぷりと湛《たた》えた愛嬌があった。新吉はわれを忘れて見送った。あれ程の年をしながら青年のように女に対して興味が充実してる男が羨《うらや》ましかった。新吉のようにもう夢のほか感情の歯の力を失ったものは彼のような男にすれ違っただけで自分の青白い寂寥《せきりょう》が感
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