て、思わせ振りな暗い入口が五六段の階段の上についている|食しんぼう小屋《ラ・バラック・ド・グウルユ》のようなものが混っている。
人々が此所へ来ると野性と出鱈目をむき出しにして、もっと/\と興味を漁《あさ》るために揉み合う。球を投げ当てゝ取った椰子《やし》の実をその場で叩き割り、中の薄い石鹸色の水をごぼごぼ咽喉を鳴らして飲みながら職人風の男が四五人群集を分けて行く。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――ちょいと気を付けてよ。汁が跳ねかえってよ。まさかあんたがいゝ人になってあたしのよごれた靴下を買い直して呉れるわけでもなし――。」
――はい、はい、気を付けますよ。抱《だ》き堪《ごた》えのあるお嬢さん――。」
[#ここで字下げ終わり]
ジャネットは此の人混《ひとご》みにあおられるとすっかり田舎女の野性をむき出しにしてロアール地方の訛《なま》りで臆面もなく、すれ違う男達の冗談に酬いた。白いむきだしの腕を張り腰にあて誇張した腰の振り方をし、時に相手によってはみだりがましくも感じられる素振りさえ見せて笑った。曲げた帽子の鍔《つば》の下からかもじ[#「かもじ」に傍点]の巻毛の尖きを
前へ
次へ
全73ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング