ゞまして覚束なく働いている新吉の様子を油断なく覗っている。何か親密な話を切り出す機会を捉えようとじれているらしい。新吉はどたんと窓から飛下りて掌に握ったじゅう/\いう鳴声を夫人の鼻先に差出した。
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――小さい雀の子。」
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夫人は邪魔ものゝように三角の口を開けた子雀の毛の一つまみを握り取って煙草の吸殻入れの壺の中へ投げ込んでしまった。無雑作に銅版刷で蓋をする。
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――おちついて、あなた、そこに暫らく坐って下さらない。」
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新吉はちょっと左肩をよじって不平の表情をしてみたが名優サッシャ・ギトリーの早口なオペレットの台詞《せりふ》を真似て、
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――マダムの言いつけとあらば、なんのいなやを申しましょうや。茨の椅子へなりと。」
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と言ってきょとんと其所へ坐った。
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――いよ/\明日巴里祭だというので、いやにはしゃいでいらっしゃるね。さぞお楽しみで
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