が》ら行って仕舞った。
 明日の祭の用意に新吉も人並に表通りの窓枠へ支那提灯を釣り下げたり、飾紐《かざりひも》で綾《あや》を取ったりしていると、下の鋪石からベッシェール夫人が呼んだ。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――結構。結構。巴里祭万歳。」
[#ここで字下げ終わり]
 新吉は手を挙げて挨拶する。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――あなたのところに綺麗な国旗ありまして。若しなければ――。」
[#ここで字下げ終わり]
 そう言いさして夫人は門の中へ消えたが、やがて階段を上って来て部屋の戸をノックする。
 新吉が開けてやると、しとやかに入って来て、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――剰《あま》ったのがありますから貸してあげますよ。」
[#ここで字下げ終わり]
 それから屈托《くったく》そうに体をよじって椅子にかけて八角テーブルの上に片肘つきながら、新吉の作った店頭装飾の下絵の銅版刷りをまさぐる。壁の嵌《は》め込み棚の中の和蘭皿の渋い釉薬《うわぐすり》を見る。箔押《はくお》しの芭蕉布のカーテンを見る。だが瞳を移すその途中に、きっと、窓に身をか
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