め、首を廻らして凱旋門通りの鱗《うろこ》のように立ち重なる宵《よい》の人出を見ると軽い調子になって彼女は言った。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――無理のようだがそうすると、あんた決めておしまいなさいね。きっと結果がいゝから。そしたらあたしその娘を巴里祭の日に、まったく自然のようにあなたに遇わせてあげますから。あなたは只その日お祭りを楽しむ町の青年になって、朝自分の家を出なさるだけでいゝのよ。」
[#ここで字下げ終わり]
 そこでステッキと手袋を新吉に押しつけるとリサは簡単に、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――ボン、ソワール。」
[#ここで字下げ終わり]
 と行きかけた。新吉が、
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――ちょいと待って呉れ給え。国元の妻のことに就いてすこし話したいんだが。」
[#ここで字下げ終わり]
 とあわてゝ言うと、リサは逞ましい腕を闇の中に振って指先を鳴らした。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――もう、あんたのことはみんなその娘に譲りましたよ。」
[#ここで字下げ終わり]
 リサは男のように体を振り乍《な
前へ 次へ
全73ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング