かったがまだ此の時分新吉は籍を置いた学校の教室へ表面だけは正直に通っていた。
主婦は歿《な》くなりでもしたと見え食事中も世話は娘のカテリイヌが焼いていた。新吉は此のカテリイヌのなかにもおみち[#「おみち」に傍点]を探そうとしてあべこべの違った魅力で射すくめられた。カテリイヌのあどけなさはおみち[#「おみち」に傍点]の平凡なあどけなさとは違った特色の魅力となって人にせまる。声は竪琴《たてごと》にでも合いそうにすき透っていた。そして位をもちつゝ行届いたしこなしに、斜に向い合った新吉は鏡に照らされるような眩《まぶ》しい気配《けは》いを感ずるばかりで、とてもカテリイヌの顔をいつまでも見つめて居られなかった。
食事が済んで客はサロンへ移った。西洋慣れない新吉がろく/\食後のブランデイの盃をも挙げ得ないのを見て教授はしきりに話しかけて呉れた。日本の建築の話も少しは出た。だが酔の深くまわるにつれ教授は娘の自慢話を始めた。教授は想像される年齢よりもずっと若く見える性質なので二十三、四にもなるらしい大きなカテリイヌを娘と呼ぶのが不似合に見えた。ましてその娘の自慢の仕方はいくら酔の上と見ても日本人の新
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