達を極度まで追詰める。
ミスタンゲット、――ダミヤ、――ジョセフィン・ベーカー、――ラッケル・メレール。「聖母マリアがもし現代に生れていたら」とカジノ・ド・パリの興行主は言った。「わたしは彼女を舞台へ誘惑することを遠慮しないだろう。」
始め新吉も女を見るにつけ、どの女からもおみち[#「おみち」に傍点]に似通うところを見付けて一つは旅愁を慰めもし、一つは強い仏蘭西女の魅力に抵抗しようとしていた。だがやがて新吉は一たまりもなく甲《かぶと》を脱がして巴里女に有頂天にならした出来事があった。新吉は建築学校教授の娘のカテリイヌに遇った。
秋もなかば過ぎた頃である。教授はその部屋には電気ストーヴが桃色の四角い唇を開けていた。それでいて窓の硝子戸は開け放されていた。うすい靄《もや》が月の光を含んで窓から部屋へ流れ込むと消えた。だいぶ馴染もついたからというので新吉が通って居た建築学校教授ファブレス氏が新らしい生徒だけを自宅の晩餐《ばんさん》に招いたのである。こんな古風な家が今でも巴里に残っているかと思えるようなラテン街の教授の家へ新吉は土産物の白絹一匹を抱えてはじめて行って見た。学課に身をいれな
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