て人に見せるものでもなし、成るだけ櫛でふせて置くようにしております。
[#ここで字下げ終わり]
 新吉はめずらしく手紙の此の部分だけを偏執狂のように読み返えし読み返すのをやめなかった。おみち[#「おみち」に傍点]はいつまでも稚《おさ》な顔の抜け切らぬ顔立ちの娘であった。それ故にこそ親が貰って呉れた妻ではあったが日本に居るときの新吉は随分とおみち[#「おみち」に傍点]を愛した。新吉は一人息子であったので妹というものゝ親しみは始めから諦めていた。ところがおみち[#「おみち」に傍点]をめとって思いがけなくも妻と共に妹を得た。洋行前に新吉はおみち[#「おみち」に傍点]に実家から肩揚げのついた着物を取寄させてしじゅう着させたものだった。東京の下町の稲荷祭にあやめ団子を黒塗の盆に盛って運ぶ彼女の姿が真実、妹という感じで新吉には眺められた。
 巴里に馴染むにつけて新吉は故国の妻の平凡なおさな顔が物足らなく思い出されて来た。
 特色に貪慾な巴里。彼女は朝から晩まで血眼になって、特性《キャラクテール》! 特性《キャラクテール》! と呼んでいる。
 妖婦、毒婦、嬌婦、瞋婦――あらゆる型の女を鞭打ってその発
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