吉をはら/\させた。
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
――誰でも此の娘を見てシャルムされないものはないそうですよ。みんな、そう言いますよ。君もそう思いませんか。そしてよくこの娘は恋文を貰うのです。みんな真剣なものです。近頃も学校の卒業生でエジプトへ研究に行った男が二年間この娘に逢えないと思うと淋しくて仕方がないと手紙をよこして言って来ました。」
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 教授は娘を売りつけるつもりでこんなことを言うのか。それとも西洋人は妻や娘の自慢を露骨にするとかねて人から聴かされていたがこれは其の極端な現れなのか、新吉は返事に苦労しながら、一方それとなく教授の様子を探っていた。教授は、したゝるような父親の慈愛《じあい》の眼で娘の方を見やったが再び芸術家によくある美の讃美に熱中しているときの決闘眼《はたしめ》で新吉に迫った。
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――君は僕の言うことをまだ疑ってるようですね。そうだ。この娘の魅力は膝へ抱えてみると一層よく判るのだ。わたしは父としてよく知っている。君一つ抱いてみ給え。」
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 その前から父と新
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