オペラ通りなどで、そんなデリカなショーウインドウとは似てもつかないけばけばしいアメリカの金持ち女などが停《た》ち止《どま》って覗《のぞ》いているのなどたまたま眼につく。キャフェのテラスに並んでうそ寒く肩をしぼめながら誂《あつら》えたコーヒの色は一《ひと》きわきめ[#「きめ」に傍点]こまかに濃く色が沈んで、唇《くちびる》に当《あた》るグラスの親しみも余計《よけい》しみじみと感ぜられる。店頭に出始めたぬれたカキのから[#「から」に傍点]のなかに弾力のある身が灯火《あかり》に光って並んでいる。路傍《みちばた》の犬がだんだんおとなしくしおらしく見え出す。西洋の犬は日本の犬のように人を見ても吠《ほ》えたりおどしたりしない、その犬たちが秋から冬はよけいにおとなしく人なつこくなる。
 公園で子を遊ばしている子守《こもり》達の会話がふと耳に入る。
 十八、九なのが二つ三つ年上の編物《あみもの》を覗《のぞ》き込みながら、
 ――あんた、まだそれっぽっち。
 ――だってあのおいたさんを遊ばせながらだもの。
 なるほど、傍《そば》で砂いじりしている子はおいたさんと呼ばれるほどの一くせありげないたずらっ子の男
前へ 次へ
全6ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 かの子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング