児《おとこのこ》だ。
 ――だけど、その帽子の色|好《よ》いね、ほんとに。あんた毛糸の色の見立てがうまいよ。
 ――うん。
 ――あら、やに無愛想《ぶあいそう》だね。またあの兄《あ》んちゃんのことでも考えてるんだろ。
 ――からかうにもさ、リヨン訛《なまり》じゃ遣《や》り切れないよ、このひと、いいかげんにパリジェンヌにおなりよ。
 十八、九のは少し赧《あか》くなりながら、
 ――大きなお世話さ。
 ――だってさ、お前さんのあの人だって、いつまでもリヨン訛じゃやり切れまいさ。
 ――大きなお世話さ。
 十八、九のはてれ隠《かく》しに自分の守《も》り児《こ》のかぼそい女の児を抱き上げて、
 ――芝居季節《セーゾン》が近づいたんでこの子のお母さん巴里《パリ》へ帰って来るってさ。
 ――あのスウィツルの女優かえ、又《また》違ったお父さんの子でも連れて帰るんだろ。
 夕ぐれ、めっきり水の細った秋の公園の噴水が霧《きり》のように淡い水量を吐《は》き出している傍《そば》を子守《ナース》達は子を乗せた乳母車《うばぐるま》を押しながら家路《いえじ》に帰って行く。



底本:「愛よ、愛」メタローグ
  
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