彼の足踏みを適当に受け止めた。
 森へはいって彼が一番先に遇ったのは軽装した親子の三人連れだった。男の子と女の子だけは彼にはっきり認識出来た。だが親は男親か女親か認識しなかった。彼の網膜に親らしい形だけ写った。それが凝結した彼の脳裡の認識にまで届かなかった。男の子は細い線状にくずれ落ちる落葉を短いステッキで縦横に截り乍ら歩いて居た。しゃっ、しゃっ、落葉の線条を截る男の子の杖の音が、彼の頭のしん[#「しん」に傍点]の苦痛の塊に気持ちよく沁みた。日曜の午前の教会へ行く人が男女五六人通り合せた。樹立ちの薄れた処なので、その人達が停ち止って彼を不審相に見る様子がはっきり判った。彼は下駄を穿いて居る上に寝巻にして居た日本服の古袷に長マントを着て居たので、彼の異国風俗を人々は見返ったのだ。彼は、公園にはいる前、街路で逢う人が度々振り返った理由をごくぼんやりと認識したが、それらが、彼に何であるのか、彼は、しゃにむに歩けば宜いのだ。彼は人々が石か岩の動くように感じただけだった。彼は一たん森を出た。またほかの森に這入った。公園内の車道に出た。自転車をよけた。自動車をやり過ごした。絶えず落葉が散って来た。
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