を貸してやった。
「どうせお前は持ってやしまいと思って。」
商売仲間の女がそろそろ場を張りに来た。毛皮服のミアルカ、格子縞《チェック》のマルゲリット。そして彼女|等《ら》はリゼットを見るや「おや!」と云《い》った。「化《ば》けたね。」とも云った。
巴里《パリ》へ来る遊び客は近頃商売女に飽《あ》きた。素人《しろうと》らしいものを求める。リゼットのつけ目はそこであった。
パパの鋸楽師《のこがくし》と、ママンのマギイ婆《ばあ》さんが珍らしそうに英語名前の食《くい》ものを食っている間に入《い》り代《かわ》り立ち代り獲《え》ものは罠《わな》の座についた。しかし、英吉利《イギリス》人は疑い深くて完全に引っかからなかった。アメリカ人がまともに引っかかった。
巴里は陽気だ。
見せかけのこの親子連が成功するかしないかと楽屋《がくや》を見抜いた商売女たちや店の連中、定連《じょうれん》のアパッシュまでがひそかに興味をもって明るい電気の下で見まもっていた。そして三人がいよいよ成功してそのアメリカ人を取巻《とりま》いて巣へ引上《ひきあ》げようとかかるとみんな一斉《いっせい》に、
「家族万歳《ヴィヴラフ
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