売春婦リゼット
岡本かの子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)新手《あらて》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)廊下|越《ご》し

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)やけ[#「やけ」に傍点]で
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 売春婦のリゼットは新手《あらて》を考えた。彼女はベッドから起き上《あが》りざま大声でわめいた。
「誰かあたしのパパとママンになる人は無《な》いかい。」
 夕暮は迫っていた。腹は減っていた。窓向《まどむこ》うの壁がかぶりつきたいほどうまそうな狐色《きつねいろ》に見えた。彼女は笑った。横隔膜《おうかくまく》を両手で押《おさ》えて笑った。腹が減り過ぎて却《かえ》っておかしくなる時が誰にでもあるものだ。
 廊下|越《ご》しの部屋から椅子《いす》直しのマギイ婆《ばあ》さんがやって来た。
「どうかしたのかい、この人はまるで気狂《きちが》いのように笑ってさ。」
 リゼットは二日ほど廉《やす》葡萄酒《ワイン》の外《ほか》は腹に入れないことを話した。廉葡萄酒だけは客のために衣裳戸棚《クロゼット》の中に用意してあった。マギイ婆さん
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