が何か食物を心配しようと云《い》い出すのを押えてリゼットは云った。
「あたしゃやけ[#「やけ」に傍点]で面白いんだよ。うっちゃっといて[#「うっちゃっといて」に傍点]おくれよ。だがこれだけは相談に乗っとお呉《く》れ。」
彼女はあらためてパパとママンになりそうな人が欲《ほ》しいと希望を持ち出した。この界隈《かいわい》に在《あ》っては総《すべ》てのことが喜劇の厳粛《げんしゅく》性をもって真面目に受け取られた。
マギイ婆さんが顔の筋《すじ》一つ動かさずに云った。
「そうかい。じゃ、ママンにはあたしがなってやる。そうしてと――。」
パパには鋸楽師《のこがくし》のおいぼれ[#「おいぼれ」に傍点]を連れて行くことを云い出した。おいぼれ[#「おいぼれ」に傍点]とただ呼ばれる老人は鋸《のこぎり》を曲げながら弾《ひ》いていろいろなメロディを出す一つの芸を渡世《とせい》として場末《ばすえ》のキャフェを廻《まわ》っていた。だが貰《もら》いはめったに無かった。
「もしおいぼれ[#「おいぼれ」に傍点]がいやだなんて云ったらぶんなぐって[#「ぶんなぐって」に傍点]も連れていくよ。あいつの急所は肝臓さ。」
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